人々がホールに足を運ばないのは「チケット価格」が原因ではないと前回の記事に書きました。(→舞台やコンサートに行かないのは…)
ひとつには、金銭的コストではなく時間的コストがかかるということも無視できないという話もしました。
特に、多忙な現代人においては時間的要因は大きく寄与しているはずです。
そして、「そもそも価格とは価値の対価であり、高いと感じるのはそれに見合う価値が提供できていないから」ということもお伝えしました。
「お客が来ない」=「高いから」
という図式はもう捨てた方がいいでしょう。
その瞬間に思考停止してしまいますから。
そして、それが事実であるという例も少し紹介致します。
チケット価格の影響度
サンフランシスコの芸術団体での調査例
多くの芸術団体にとって、寄付金や政府の補助金以外ではチケット収入が大きな収益源です。
であるがゆえ、「客が来ない」→「でも、チケット代は下げられない」という板挟み状態になって悩むワケです。
ですが、何度も述べているようにお客さんがチケットの価格をさほど気にしていないとしたらどうでしょう?
ここでひとつの例をご紹介します。
1996年頃、サンフランシスコでとある複数の芸術団体がマーケーティング調査を行いました。
いわゆる市場調査です。
その調査の目的は、「チケット購入に影響を及ぼす要因」や「価格」について把握すること。
結果、チケットの購入を決める際の要因は「価格」ではないことが分かりました。
というのも、以下のような結果が出たからです。
Q.チケット購入で最も重要になる要因はなにか
- その公演への興味(41〜65%)
- スケジュール(25〜60%)
- チケット価格(8〜28%)
多くの人が思っていたであろう「チケット価格」で決めているひとは8〜28%程度です。
2500人収容ホールであれば、200〜700人。
そしてなにより、半数以上の人が「公演への興味」を挙げています。
この結果から言えば、むしろチケット価格は上げることさえできるかもしれません。
大切なのは払った価格に見合う価値が得られているか、それに限ります。
メジャーリーグのチケット変動制度
高い席でも付加価値を付ければ売れる
自分のメガネで物事を考えていては正解は見えません。
他人のメガネで見てみないと、求めているものは見えてきません。
これまでの常識や従来の価値観は捨てるくらいの勢いがある意味では必要です。。
先ほど私は、「チケットの価格を上げることが出来るかもしれません」と言いました。
例えばメジャーリーグのニューヨークヤンキースは、高収益なチームとして知られています。
楽天から移籍した田中将大投手の移籍金がなんと161億円。そんなお金が出せるチームです。
なぜそんなにも高収益かというと、その背景には実はチケットの高価格化があったんです。
そこにどんなカラクリがあったのか。
実はヤンキースの本拠地であるヤンキースタジアムのバックネット裏には超豪華なVIPルームがあります。
新スタジアム建設の際、座席数を12%程減らしてまでわざわざ用意した席です。
しかしこのプレミアムシート、座席数で全体の1割にも満たないものの、入場料収入の60%を稼ぎ出しています。
この戦略の上手い所はもちろん富裕層に目を付けた点であり、その富裕層のために座席の価値を高めたことです。
彼らも入場者数や収益に苦しんでいた時期がありました。
しかし「チケットのディスカウント」という安易な戦略を取らなかった所はさすがアメリカといった感じです。
そして彼らは富裕層を顧客としてとらえ、その満足度を上げるため様々な付加価値を加えています。
たとえば、バーやラウンジを充実させ、座席も広く上質な素材に。
もちろんノンストップで球場に入ることが出来、雨に濡れる心配も無い。
スタジアムで野球を見たい。
でも入場や食べ物に並んだりせず、ゆったりと試合観戦をしたい。といったような富裕層のニーズをきちんと捉え、通常の席とはちがう価格で販売したのである。
ここから学べることは、付加価値を加えて満足度を高めることがいかに重要であるかということ。
誰それかまわず、「よし、富裕層向けにいい席作ろう」とやったところで成功はしない。
本当に彼らが求めているのはなんなのかを徹底的に考えて初めて成功する類いのものですから。
でも、こうしたシートに付加価値を与えたり、価格を変動させたりすることは日本のプロ野球でもやっています。
それをそのまま真似したトコロでなんも意味ありませんが、こうした思考方法というか本質的な考え方は非常に参考になるのじゃないでしょうか。
安易に価格を安くするだけでは、価値を自ら下げてしまうことになりかねないので、その手段はよくよく考えて使わねばなりません。
このように他業界の例ではありますが、必ずしも「チケットの値段の高さと入場者数」は関係がなく、むしろチケット価格が上がって入場者も増えることもあるという例があります。
そう考えてみますと、チケットの値段に手を入れるより「行ってみたい」と思う興味を醸成していく方が先決なような気がしてきませんか?